金曜日, 6月 13, 2008

iPS

 新しいAppleの製品ではない(もちろんそれを意識したネーミングだけど)。induced pluripotent stem cell(iPS細胞、人工多能性細胞)の略で、山中伸弥教授[link]が世界で初めて人工的に作るのに成功した万能細胞のことである(iPS細胞だけでは個体はできないので、正確には多能性細胞)。ずっと気になっていたので、iPS細胞の本を一気に2冊読んだ。復習を兼ねて簡単にまとめてみたい。
 そもそも、トカゲの尾は切ってもまた生えてくるのに、人の体はなぜ再生しないのだろう(トカゲは尻は生えるが骨は生えないそうだ)。この再生能力の違いは幹細胞の違いにある。幹細胞とは簡単に言うと、様々な体の部位(目、脳、骨、内蔵など)の細胞に分化する能力を秘めた細胞のことである。幹細胞をコントロールすれば、原理的にはどんな臓器でも作り出すことができる。
 以前は、ES細胞(embryonic stem cell、胚性幹細胞)が盛んに研究されていた(黄禹錫(ファン・ウソク)教授の捏造事件は記憶に新しい)。しかし、ES細胞は(人になる可能性のある)受精卵を壊して作られるため、倫理的な問題があった。さらに、他人から作られたES細胞では移植した際に拒絶反応が生じる。
 一方、iPS細胞の場合は、材料は自分の細胞でよい。これに遺伝子を人工的に組み込み、細胞分化をリセットすることでiPS細胞が得られる。自分の細胞が材料ならば、拒絶反応もないし、倫理的なハードルも(ES細胞に比べれば)低い。山中教授が人で作り出したiPS細胞は、女性の頬の皮膚細胞が材料だそうだ。つまり、「頬の細胞に魔法をかけて心臓にしてしまう」というようなことが可能になったのだ。再生医療だけでなく、倫理や経済、そして「生命とは何か?」という本質的な問いを巻き込んで、iPSはますます注目されるだろう。僕が読んだ本は以下の2冊。生物の予備知識のない方は上、ある方は下を読まれることをお勧めする。

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